ぼやきたくもなる世の中

〜秩序のない現代にドロップキック〜

恋をして、愛されていた話。

 

○○にとって、私は絶対に特別だったと思う。

絶対、という言葉は好ましくないとわかっていて、敢えてこう表現する。

絶対に、特別だった。

 

 

半分以上は憧れだった。○○は、社会的な立場上、まさか好きになるとは思ってもいなかった相手だったからだ。

 

 

-1-

 

気が向くと私は○○の机を視界に捉え、○○が忙しくなさそうなことを確認すると、話しかけた。勝率は3割くらいで、大抵忙しそうであった。

私が話しかけると○○は決まって、じゃあちょっと抜けようか、と言い、机を離れ部屋を出て、離れたところにある個室に向かう。薄暗い1畳半のその部屋のドアを閉めると、私と○○は小さい机を挟み、少し前に乗り出せばおでこをゴッツンとしてしまうような距離で向かい合って、束の間のお喋りを楽しんだ。自他共に認める似た者同士で、日常生活においてなにかと我慢しがちな私と○○は、いつも日々の不満を柔らかに言い合い、共感し、そして励まし合っていた。

 

「ここの指の動きに癖があるからーー。」ふとした時に手と手が触れる。○○も私も音楽をやっていたから、自然なことだったと思う。

意識的に、意識しないようにしていた。多分○○もそうだった。意識をすれば、それは許されないことになるからだ。

 

 

-2-

 

女子に大変人気だった○○は、周りをいつも誰かしらに囲まれていた。○○はテキトーな冗談を言って軽くあしらい、じゃあ忙しいからと告げて机に向かう。連絡先、プレゼントや手作りお菓子、手紙、一切を断っていたらしい。

 

例の薄暗い個室でふと、その類の愚痴を聞いた。俺、モテちゃうからさぁと軽く言う○○の顔が近い。アナウンサーにいそうな、高い鼻と整った濃いめの眉が特徴だ。私も軽く「私だって連絡先聞くの我慢してるのに」と笑って言ってみせた。

すると○○はふいに真顔に、いやどちらかといえば澄まし顔になって、なんで聞いてくれないの?といつもよりいくらか遅い口調で呟いた。○○の目はじっと私を捉えていて、その視線から逃げることを許さない、ずるい目をしていた。憧れていた、綺麗な二重の目だった。

「え?聞いていいの?」と困惑する私に、○○はスーツの内ポケットから出した紙をさらに小さくちぎり、そこに電話番号を書いて渡してくれた。ここで話すには時間の制限があっていつもキリが悪くなっちゃうでしょ、夜は何時から何時までだったら出れることが多いから。とかなんとか、ブツブツ言いながら。

「私も渡していいですか?」交換はダメらしい。私もなんとなくそんな気がしていたから、「だよね」と返す。「電話番号の中に、5が3つ連続で入ってる番号からかかってきたら、それ私なので」と言って、ブレザーの内ポケットの奥の奥にその小さい紙切れを仕舞う。電話番号のどの部分がゾロ目なのか楽しみだなぁと○○はぼやいた。僕の予想では最後の3桁かなぁと言うので、心の中で残念、と返す。

おかげでその日の左胸は、いつもより少し騒がしかった。

 

○○の電話番号を登録した私は、かけるタイミングに困っていた。だって家に帰ったら疲れているだろうし、話したいからと言う理由だけでかけていいものなのだろうか?何か用事がないとダメなんじゃないか?日中は会おうと思えば会えるのに、わざわざ夜に用事って、何かあるだろうか。迷惑だなと思われたら--。

登録したその連絡先の画面を、開いてはじっと眺める夜が続いた。

 

 

-3-

 

僕が出演するから、と○○に誘われて、友達と一緒に演奏会に出向いた。○○が指揮を振る様子は、誰がどう見たってかっこよかった。背中が大きい。腕が長い。あの腕に、どんな女性が抱かれるんだろうかとふと考えて、そんな自分の浅ましい思考に気がついて、慌てて音楽に集中した。演奏会は確か、とても良いものだった。

演奏会終了後、疲れるからと打ち上げへの不参加を以前から表明していたらしい○○は、私たちをカフェに連れて行ってくれたが、私には厳しい門限があったため、話し始めて10分足らずで帰らなければいけない時間になってしまった。横に座る友達が、身を乗り出して○○と喋っている。○○も本番が終わり緊張が解けた様子で、とても楽しそうだった。なんだかとてもザワザワした。本当は乗りたい電車までまだ余裕があったが、慣れない駅だからと言い訳をして、逃げるようにカフェを離れた。

 

ずっと不快な気持ちだった。電車を降りてバスに乗り、移り変わる景色を、通り過ぎていく街灯や対向車のライトを、眼鏡を外してぼんやり眺めていた時、私はふと自覚してしまった。これは嫉妬だ。私きっと、好きなんだ。突然悲しくなった。好き、という感情の割には、何だかとても静かな世界に気づいてしまった。

 

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バスを2個手前の停留所で降りた。いつもは歩かない暗い道を歩くのは心細く、明かりを求め携帯電話の画面をぱかっと開く。

無意識だった。"待機中……" の文字が浮かび上がったのを確認した時、うわわわと焦って慌てて電源ボタンを連打して通信を切った。かけちゃった。今日なんて○○が一番疲れている日じゃないか。しかもこんなわかりやすく嫉妬めいた幼い行動をーー。暗くて人通りの少ない道なのを良いことに、一瞬だけ蹲って深く長い溜息をつく。やってしまった。だめなのだ。勢いやその時の感情に任せて行動しては、きっとだめになってしまうのに。

 

家に帰って携帯電話の電源をつけ直すと、2件の着信履歴が残っていた。家に帰る10分の間に、2回も折り返してくれたらしい。それに気づかなかった自分をさらに責め、急いでショートメールで「先程はごめんなさい。今日はお疲れ様でした、演奏会楽しかったです。門限間に合いました◎」と送った。なんでもない様に装いたかった。ましてや、帰り道にバス停を手前で降りて歩きながら無意識でかけてしまったなんて、絶対に知られたくないことだ。

ショートメールを送って2分後、電話がかかってきた。驚いたが内心ほっとして、3コール置いて、電話に出る。「もしもし、こんばんは」と少し緊張する私に、さっき会ってた時も暗かったでしょ、と○○は笑った。

○○は、電話になるといつもより大人しくなるな、しおらしくて可愛いじゃん、と言うので、電話は慣れていないこと、かけて良いかずっと迷ってたのに今日に限って勢いでかけてしまったこと、疲れている中今は特に迷惑じゃないか不安なことをゆっくり話した。○○はいつもの通り、話を遮ることなく最後まで聞いてくれる。そして言った。

 

大丈夫、君からの電話は、これからも決まって嬉しいから。大丈夫だから。うん、大丈夫。

 

○○は、大事なことを言う時には語調が遅くなる。それがいつも心地よかった。どうして大丈夫なの、と聞きたかったが、それこそ困らせてしまうことは明白だったので、ありがとうとだけ言って、頻繁には電話はかけないことを私から一方的に約束し、バイバイを丁寧に言って、その日は電話を切った。よく覚えている、通話時間0:11:46。その数字を暫く眺めて、なんか素敵な数字だなとよくわからないことを思った。

 

 

-4-

 

時は流れ学年が上がり、受験生になった私は、利き手に突如疾患を抱えることになった。後天性の病気で、おまけに原因不明ときた。握力や指力が極端に落ち、ペンが持てない。第一志望B判定をキープしていた模試は、受験生にとって「勝負」と言われる夏から、受けることすら許されなくなってしまった。一生懸命整えてきたレールを壊されたような、今までやってきたことを全否定されたような気分で、私が立つ場所は急に真っ暗になり、進むべき道は突如として濃い灰色の霧で見えなくなってしまった。

どんなに心を開いている友達にも気持ちを吐露できない。みんなはただただ、ひたすらに汗を流しながら必死に勉強している。一方私は、まず勉強の仕方を根本から考え、治らなかった場合にどう受験を乗り切るのか、そもそも今希望している将来は実現可能なのか、色んなことが、友達ーー普通の受験生のそれとは違ってしまっていて、心の中はぐちゃぐちゃになっていく。体調も大きく崩し、しばらく自室に引きこもった。

 

スマホが振動した。3コール置いて、通話マークをタップする。もしもしすら言えず、何も声が出せず、ただ電話が繋がってから急に涙が出てきて止まらなくなった。そういえば、疾患がわかってから今まで、泣くことを忘れていたなと、変に冷静な私がいる。

最近来ないから心配してた、聞いたよと、いつもの調子と変わらない優しくて深い声が響く。ヒックヒックとしか言わない私の心の内を、○○は敢えて、電話の向こう側から代弁してくれた。ひとつひとつ確認するように、全部、ゆっくり言葉にしてくれる。それは私が誰かに言いたくても言えなかった、言葉になりきれていなかった言葉ばかりだった。私は声にならない「うん」を連呼するほかなかった。

 

その日は3時間くらい通話をした。泣き止んで気持ちが少し落ち着いた私はポツポツと自分の言葉で自分の気持ちを話すことができたし、○○は今までの人生で思い通りにならなかった時のエピソードを沢山話してくれた。私は話を聞きながら、あとで思い出せるようにしようと、利き手とは違う手で必死でメモを取った。そしたらなんだかそちらの手も痛くなってくる。こっちもダメなのか。それでも、電話中は構わずメモを取り続けた。

 

こうして、私が一方的に交わした約束は、○○がどんどん破いてくるようになった。夜が更け、気持ちが落ち込んできた絶妙なタイミングで、スマホの画面が明るくなる。3コール置いて、出る。○○は冗談を交えながら、だけど真剣に話をしてくれる。どんなに救われたことか、ここではまるで言い表せない。

1畳半の薄暗い部屋でも、頻度は落ちたが会うことはやめなかった。私が○○の様子を伺わなくても、○○の方から声をかけてくれるようになったのだ。もちろん私には断る理由などなく、「ちょうど聞いてほしいことがあったんです」と答える。次第に周りでも少し噂になってしまって、○○の一番のファンの女子から陰湿な嫌がらせを少しだけ受けたりもしたが、「貴女がそんなことをしても、貴女が望む結果には繋がらないんじゃない?」と直接伝えたらピタリと止んだ。遠くから睨まれることは多々あったが、物分かりの良い人でまぁよかったなとそれくらいに思っていた。

 

 

-5-

 

手の疾患を抱えた受験生の私は、肝心の勉強よりも、どうやったら治るのかを沢山研究していた。何せ原因がわからないので、医者に任せているだけでは治療が進まないのだ。

それに関して、○○も積極的に考えてくれていたのだが、ある日の朝○○は興奮気味に、試したいことがあるからお昼に来て欲しいと言ってきた。

落ち着かない午前中をなんとかやり過ごして、お昼に私と○○はいつもの狭い部屋に集う。話を聞くと、信頼している作業療法士の知り合いから聞いた、痺れや痛みを緩和する方法らしい。自分ではできないので、早速○○にやってもらうことにした。

スプーンを使ってやるその方法は、少し痛みを伴った。やってもらっている手前、できるだけ反応しないように沈黙に徹していたつもりだったが、耐えきれず「ん、」と声が漏れてしまう。(落ち着け、大丈夫)、そう頭の中で言い聞かせてゆっくりと息を吐く。大丈夫?と確認する○○に、反応は見なくていいから続けてとお願いした私の心臓の鼓動がうるさい。

ごめん、やりにくいから立って、と言われた。素直に立つが、座っているより立っている方が踏ん張れず、漏らす息の量が増えてしまう。なんだか、恥ずかしかった。

 

悶えてるね。

 

急に言われた。予想していなかった言葉に少し狼狽えてしまい、「いや、別に」と咄嗟に強がった。久しぶりに○○相手に強がりを見せてしまった気がする。いつもならすぐに見破り、強がるなと咎める○○も、その時は力を抜くようにフッと笑い、僕も疲れてきたから少し休憩しよっかと言った。なんとなく言葉が発せず、私はゆっくり頷いた。

机の側に立っていた私は、椅子に座ろうとして壁際に移動した。すると○○も、なぜかこちらに体を向ける。背中に壁、右手には机にしまってある椅子、前に○○、という構図になった。○○の意図が読めずただただ不思議で、私は思わず目を見つめてしまった。しばらく時が止まっていたと思う。

止まっている時間の中で突然、○○の唇が、私の前髪を掠めた。

触れたのか触れていないのか、それすらイマイチよくわからなかったが、ストレスでおでこにできたニキビが目立っていないか、それが一番心配だった。

はぁぁ、と○○が長い溜息をつく。ごめん、今嫌じゃなかった?と聞かれたので、私は首を横に振ったが、アメリカだったらこの反応は”嫌だった”ことになるのかと、余計なことを考えた。

そんなことを考えているうちに○○は、ごめん、この部屋を出たら、今日のことは絶対に忘れて、と言った。いい?と聞かれるので私は目線で返事をする。一瞬○○の指が私のそれをなぞり、そして、それとそれがゆっくり触れた。今度のは少し長い。思わず○○の背中に手を回してしまった。触れただけでもわかる柔らかさに、びっくりしてしまったのだ。

顔を離した後、○○は私の髪を撫でながら、さっきの約束できるよね?ととんでもなく優しい声で言ってきたので、私は「思ってるよりも私はいい子じゃないですよ、きっと」と返した。○○は大きく目を見張った後、ふふふと笑い、私の頭をポンポンと叩いた。

結局、スプーンを用いた療法の続きはやらず、私たちは小さいようで大きな秘密を抱えて、狭いようで広い部屋から、広いようで狭い世界に戻っていった。

 

 

-6-

 

夏休みが終わる頃も、私の悩みは変わらず、疾患の状況はむしろ悪化していくばかりだった。夏が終わってしまった。

私は○○の机の方に目をやる。すると○○は既にこちらの様子を見ていたようで、バッチリと目があった。こういうことは今までにあまりなかったので少し面食らったが、○○がこちらに向かって手を招いてきたので、私は吸い寄せられるように机に向かった。

すると○○は突然、これ約束してた楽典ね、と言って、何やら重量感のある袋を渡してきた。「楽典?約束のって……」と言いかけたが、○○はいつものずるい目で、さらにウインクを畳み掛けてきた。お、ここは空気を読むべきだ。「あーこれかぁ、ありがとうございます、よく覚えてくれていましたね」と少し大袈裟なリアクションをとって、じゃあねと手を振り、袋を抱えて、机を離れることにした。

 

1人になれる場所を探し、袋を開けた。入っていたのは、分厚くてそこそこ重いリングノートと、束のままの一筆書きの便箋だった。

リングノートはかわいい植物柄だが、なにせ大きくて、やたら表紙がしっかりしている。ビニールの透明な包装を破いてパラパラめくると、中の模様は小さいマスの方眼だった。私は無地か方眼のノートが好きなので、流石だなぁと思う。しかしこれはなんだろうか?

一筆書きの方を開いた。1枚目は私の名前のみ、2枚目からは手紙が書かれていた。内容を読む前にパラパラめくると、一筆書きなので一枚に書ける量は少ないとはいえ、最後の紙まで使われていた。思わず仰け反った。読むのがなんとなく勿体ない気もしたが、読みたい気持ちが抑えられるはずもなく、1枚目から開き直す。

手紙によると、リングノートは『今思っていること、ふと思いついたことを何でも、どんどん書いてあって欲しい、そして10年先まで持っていれば、きっとそれが励みになったり拠り所になったりするはずだ』という意図が込められたプレゼントだった。ペンを持ってなにかを書くこと自体は痛くて辛いが、毎日一言ずつだったら書けそうだ。とりあえずやってみようと思った。

 

手紙の中盤以降に書いてあった、『自分のことを愛してあげて。』という言葉が、とにかく印象的で、深く心に刻まれることとなった。貴女はいろんなものと闘って頑張ってる、凄いんだから、そんな自分を認めてあげてと、書いてある言葉がゆっくりした語調で、あの深い声で再生される。

 

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最後には『……という風に恥ずかしいことを書いてしまったわけで、渡し方を考えあぐねています(笑)』と書いてあった。それでさっきの渡し方だったのか、と心がほっこりとした。

 

 

-7-

 

秋が深まり冬の匂いが漂い始めた頃、私と○○はふと赤ちゃん連れのお母さんに遭遇した。話を聞くと、どうやら彼女は私の大先輩らしい。子供が産まれた報告に来たのよと言うお母さんの話を半分も聞かずに○○は、あら〜可愛いですねぇと、ベビーカーの前に座り赤ちゃんから目を離さない。赤ちゃんが○○に笑いかけると、○○はすっかり調子に乗って、いないいないばぁをしては可愛い可愛いと連呼していた。

私はお母さんの話を聞きながら、○○の様子を眺めていた。子供好きなんて、あまりにも想像通りだった。親子と別れた後、貴女は子供が好きではないのかと○○に聞かれた。

子供や動物は大好きだ。見るだけで笑顔になれるし、すぐに触れたくなる。口調もいつもとは180°変わってしまう典型的なタイプだ。だけど、その時は無理だった。そんなところまで似ていることを、認めたくなかった。これ以上、○○に共感できることを増やしたくなかったのだ。私は「子供って何考えてるか私には難しくて、構えちゃうんです」と返した。○○は、ふぅん、僕は大好きだけどなぁ、とぼやいた。

ねえ、私も、大好きです。本当は。

 

 

-8-

 

3月。卒業式はすでに終わり、夜の懇親会の場で、友達やお世話になった人々と写真を撮り、言葉を交わす。これからもたくさん苦労しそうだけど、貴女なら大丈夫と、そんな言葉をたくさん頂いた。

○○は相変わらず女子に囲まれていた。中々近づけない。○○は、俺のことなんて君達はすぐに忘れるよ、俺も忘れっぽいから君達のことはすぐに忘れるからね、とよく通る声で言いながら笑っている。周りの女子が、ひどぉい、と騒ぐ。

するとふと目が合った。その時、○○は両手の指を使い『8』と示してきた。

8?

少し時間が経つとその意味がわかった。○○は女子の群れをさらりを交わし、私に目線を送ってきた。さっきの合図から、ぴったり8分後だった。

私は怪しまれないように話していた輪から抜け出し、後を追って会場を出る。会場の扉から出ても死角になるような曲がり角の向こう側に、○○はいた。よぉ、と力の抜けた声がする。

正直なところ、何を話したかよく覚えていない。私と○○が話をするには、廊下なんて空間は広すぎた。

 

が、強烈に残っている言葉がある。

 

 

僕は絶対に、君のことを忘れない。

だけど、君は早く僕のことを忘れてね。

いや、忘れなきゃだめだ。

それでいいから。

 

あのね、こんなに人を愛したいと思ったのは、初めてだったよ。

達者でな。ありがとう。

 

 

 

制服を脱いだ私は、連絡先と通話履歴の○○の名前を全て削除した。

それからもう、3コール鳴る間を愛おしく思うあの時間を、味わうことはないのだった。